金子研の研究内容
今日の情報社会は,WWWに代表される大規模な情報空間に支えられています.しかし,そこには「キーワード検索」のような人間による直接的な関与が必須であり,真に価値のある情報へのアクセスは必ずしも容易ではありませんでした.金子研究室では,ネットワークアーキテクチャの観点から既存の情報通信サービスを抜本的に再設計することで「情報資源のソーシャライズ」を実現し,これまでにない新しい情報価値の創出を目指しています.
現在のインターネット技術は,バラバラに存在していたコンピュータを相互接続することによって,各計算資源を高機能に活用させることで発展してきました.しかし,YouTube, Instagram, Xのようなソーシャルサービスや企業・個人の持つデジタルオブジェクトの利活用に注目すると,現代の情報資源の多くは、LANに閉じ込められたインターネット以前の計算資源のように,限定的なコンテキストでしか利用されていません.私たちは,これらの情報資源を組織やサービスプロバイダの垣根を越えて,利用者が自由に活用できるような「異次元の利活用フェーズ」に到達することが必要だと考えています.
このビジョンを実現するために,金子研究室では以下の4つの目標を掲げながら,研究を進めています.
- 1. パーソナライズされた情報空間の実現
- 利用者一人ひとりにとって真に価値のある情報が、必要な時に速やかに提供される環境を構築します.
- 2. 持続可能な情報処理基盤の確立
- 増加し続ける情報資源と利用者に対して規模拡張性のある,サステイナブルな情報流通・処理基盤を提供します.
- 3. 情報セキュリティと資産性の両立
- 情報資源の保持者にとっての資産性と,利用者にとってのプライバシー保護を両立し,さらに真正性や信頼性の検証を可能にします.
- 4. 競争的情報サービス環境の創出
- 誰もが情報提供者,情報利用者,そして高品質な情報を提供するキュレーターとなり得る,開かれた環境を目指します.
私達の研究の最大の独創性は,ネットワークアーキテクチャの観点からこれらの課題を解決しようとする点にあります.私たちは,情報資源を「ネットワーク化」するという発想から,以下のような技術的アプローチを取ります.
- ・ 情報資源の「グラフ化」
- 多様な情報資源とそれらの関係性をノードとエッジの形で抽象化し,グラフ構造として捉えます.これにより,情報資源の具体的な中身を隠蔽する形での資産性を保護した情報流通,及び情報資源の中身にとらわれない情報処理基盤が実現します.加えて,グラフデータは元データに比べて遥かに軽量なので規模拡張性にも優れます.
- ・ グラフの相互接続によるサービスの垣根を超えた情報資源の利活用
- 自律分散管理されたグラフを,利用者が利用サービスに合わせて動的に相互接続することで,広域な情報ネットワークを構築します.これにより,組織やサービスプロバイダの垣根を越えた,自由な情報資源の流通と活用を実現します.
- ・ 計算機主体のパーソナライズされた情報探索
- 構築されたグラフ上をコンピュータが自律的にランダムウォークすることで,潜在的な価値を持つ情報資源群を発見します.これによって,既存の大規模検索エンジンやLLMで課題となる,人間の知識や理解を前提とした処理のボトルネックが解消されます.また,探索の仕方はユーザが自由に選択することができるため,ユーザ主体のパーソナライズされた情報探索をセキュリティに考慮しながら実現可能です.
- ・ 既存のAI 技術と統合することによるユーザフレンドリな情報提示
- グラフ分析によって発見された情報資源群は,AIや大規模言語モデルなどの既存技術と連携させることで,内容の要約や解釈,多様なアプリケーションサービスに利用されます.これにより,利用者にとって真に価値のある情報をより理解しやすい形で提供し,情報活用の新たな可能性を模索します.